コレクション

横井照子はエッグテンペラ・油彩・水彩・リトグラフ等の多様な画材を用いて、日本の四季に感化された詩的で抒情豊かな世界観を表現した。日本時代は印象派的な表現、アメリカ・フランス時代は抽象表現、そして画家として大成したスイス時代は具象を抽象的に表現するスタイルと、その作風は変化に富み、常に新しい表現を模索していたことを伺い知ることができる。また、西洋の絵画技術と東洋の伝統・感性を融合させ、彩度の高い美しい色彩によって独自の作風を確立した。

  • 《Landscape in Tsushima》

    1938 or 39年

    油彩、板

    横井は愛知県津島市の出身で、上京する25歳まで津島で過ごした。この作品は中学3年生のときに描いた。横井曰く、「津島って…(中略)…まだどこかに江戸時代の雰囲気が残っているような街並みと、それから田んぼが続いてその間に蓮田があって、春から夏は真黄色、それが菜の花。その後は、稲が黄金色になる。そういう本当の田舎だった…(後略)」。

  • 《無題》

    1957年

    油彩、カンヴァス

    抽象表現主義の影響を受け描くようになった頃の画風。横井はサンフランシスコからニューヨークへ移住した1955年以降、一気に抽象表現に向かう。日本の伝統的な美意識や色彩感覚、自然観に基づく独自の絵画表現を追求した岡田謙三の影響も感じられる。

  • 《リージョン・オブ・オナー美術館》

    1955年

    竹ペン・墨、紙

    リージョン・オブ・オナー美術館はサンフランシスコにある美術館で、1955年横井の油彩による初個展が開催された。全米屈指の西欧美術の殿堂として、装飾美術・彫刻・絵画など124,000点以上の所蔵を誇る。初個展をその美術館で開催したことで、横井は自身の画力に自信を持つと同時に、大変思い出深い場所となった。なお、竹ペンは竹を削って作ったペンで、横井は風景スケッチでよく使用した。

  • 《Still life》

    1954年

    油彩、カンヴァス

    横井にとって海外で最初の創作活動拠点であり、多くを学んだサンフランシスコで描いた作品。画業初期の横井は、日本の師である木下孝則に影響されて静物画を描くこともあったが、1955年以降は描かなくなった。生涯の中で描いた静物画の点数は少なく、大変珍しい。

  • 《Ballad of East and West》

    1962-68年

    油彩、カンヴァス

    「東西のバラード」と題された当作品は、東洋人である横井が西洋において自身のアイデンティティの模索を表すような、東洋と西洋の融合を表現した作品。独自の抽象表現を模索する中、自然や四季の味わいのある画風を確立していく。横井曰く「具象派から抽象画への移行はとても自然だった。自然に変わっていった。でもこうした抽象画の根底には、私が住んだ日本の自然の情景があった」。

  • 《Deep Autumn Ⅱ》

    1964年

    油彩、カンヴァス

    たっぷりと絵の具を含む絵筆で意図的に絵の具を流れ落とす技法や、絵筆を振って斑点をつける技法は、1950年代アメリカ・ニューヨークの抽象表現主義(=アクション・ペインティング)の影響がみられる。「色彩画家」と評される横井の作品において、一番象徴的とされる赤が用いられた作品。

  • 《無題》

    1960年代

    陶器

    高台内に「照」のサインが入っており、側面には筆で描いた葉っぱのような太線模様がある。スイス移住直後にウォリスで陶芸のコースを受講し、制作したもの。横井が初めて手掛けた陶芸作品。

  • 《Plum festival》

    2006年

    エッグテンペラ、紙

    横井は50代後半には「四季」を自身のテーマとし、油彩にかえて、発色の良さと変色劣化が少ないエッグテンペラを自身の表現に取り入れることで、四季の持つ味わいを表現していった。この作品は2009年スイス・コンフェルド画廊にて開催された“SCHNEE MOND BLUMEN Retrospective von 1941 bis heute(1941年から今日までの雪月花回顧展)”に展示され、図録の表紙にもなった作品。

  • 《無題》

    1962/63年

    グワッシュ、紙

    横井は本が大好きで、俳句が趣味であった書家の父の影響や、学校で学んだ書・詩・短歌・俳句など、幼い頃から多くの言葉や文字に触れてきた。「色彩を絵で表現する画家か、色彩を言葉で表現する詩人かのどちらかになりたかった」と本人が語っているように、その後、画家として人生を歩むことになっても絵と文字が切り離されることはなく、発想や創造の源となった。

  • 《San Francisco, Van Ness Avenue》

    1953年

    油彩、カンヴァス

    横井がカリフォルニア・スクール・オブ・ファインアーツに通っていた時に住んでいた家の窓から見えた景色。この家の窓から太平洋に陽が沈む美しい光景をたった1人で見ていることを悲しみ、落ち込んでいた横井に教員が「照子、あなたは絵描きだろう。絵描きだったらその一瞬のものを画面にとどめて永遠にすることができる。それで独り占めしなくて他の人にその喜びを分け与えることもできるじゃないか」と話したというエピソードがある。

  • 《栗》

    2002年

    エッグテンペラ、紙

    鬼皮にくるまれた種子(実)の部分は具象、イガの部分は抽象的に描かれた作品。1980年代以降、横井は季節の情景や草花など自然をテーマにした色彩豊かな作品を多く手掛けるようになるが、具象表現の中に抽象表現を融合させて描くのは、アメリカ時代やフランス時代に体得した抽象表現に由来すると言える。